令和3年度 地域連携・研究推進センター活動報告書第8号
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43山形県立米沢栄養大学・山形県立保健医療大学共催公開講座 「子供はなぜブランコから降りようとしないのか -運動と脳の発達-」 齋 藤 和 也 実施期間:令和3年10月9日(土)13:00~15:00 開催形態:オンライン(ライブ配信) 連携機関:山形県立保健医療大学 子供はブランコが好きですね。もう晩ごはんの時間だからと言われても一向に降りようとしません。私も子供の頃楽しかった。でも大人になるにつれてだんだんブランコに乗る機会は減りました。別にブランコが嫌いになったわけではありません。学校や仕事が忙しくなったとか、他の趣味ができたとか、世代交代とか、理由はいろいろつけられますがそれを今回はあえて大人と子供の脳の違いという観点から考えてみましょう。 1.基本の「き」 1) 脳機能の発達 大人の脳と子供の脳を比べてみますと、脳幹や脊髄はそれほど目立った変化はありません。つまり、生まれてオギャーと泣く頃には既にかなりの部分が出来上がっています。違いが際立っているのは大脳で、ここは生まれた後も成長を続けます。このような脳の成長の違いは、その働きにも反映されます。つまり、脳幹・脊髄は赤ちゃんにとっても大人にとっても必要な機能を担うのに対し、大人になるにつれて求められるようになってくる機能の多くは大脳が担います。 運動機能にしぼって具体的に見てみましょう。脳幹では呼吸、循環、嚥下、眼球運動などが制御され、脊髄では屈曲反射が実行されます。また姿勢、歩行、リーチングなどは脳幹から脊髄にかけた広い領域が関わります。これらは赤ちゃんか大人かを問わず、生存に必須の運動です。 これに対し、生後徐々にできるようになってきた運動は、大脳の発達に伴って後から付け加えられたものと考えられます。これらの運動の中にも、その複雑さによって段階があることに注目してください。たとえば歯を磨くという動作は、朝目が覚めて体を起こし(姿勢)、洗面所まで行き(歩行)、歯ブラシを探して(眼球運動)、それに手を伸ばして掴み(リーチング)と大変複雑な手順を踏みますが、その一つ一つの運動要素は脳幹・脊髄で実行可能な生得的パターンのものが多く、それらを順序よく組み合わせることだけが大脳の役目になります。 しかし音楽に合わせてダンスをする場合などでは、全く新しい運動パターンを学習することが必要です。その分、大脳の果たす役割は大きくなります。そして実際に体を動かすことなく、頭の中だけで運動をすること、つまり運動のシミュレーションは最も高度な機能の一つといえます。これは大脳の発達過程でも最後に獲得されます。

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